大地の詩(うた)は決して絶えることがない。
鳥たちがみな暑い陽射しにやられて
涼しい木陰に身を潜める頃、一つの声が響き渡る
刈り取られたばかりの草地を囲む垣根から垣根へと。
それはキリギリスの声だ──彼は我先にと
夏の贅沢を味わう──彼の喜びには
終わりがない。疲れるまで楽しんでは
心地よい草影にのびのびと休むのだ。
大地の詩は決して止むことがない。
さみしい冬の夕べ、霜が降りて
静けさをもたらす頃、ストーブの辺りから
コオロギの歌が鳴り響く。暖まっていく部屋の中で
眠気にうとうとしながら、人はこう思うのだ
青々とした丘でキリギリスが歌っているのかと。
▶メモ
ジョン・キーツ(John Keats, 1895-1921)が詩人仲間と即興でソネットを作る遊びをした時の作品。元の詩には「1816年12月30日」とあり、21歳の冬の作であることがわかる。夏の場面と冬の場面で暑さと寒さ、賑やかさと静けさ、屋外にいる詩人と室内にいる詩人といった対比を作りながら、虫の声という「大地の詩」で両者を統一している。さらにこの統一を手がかりとして、夏から冬へ進む客観的な自然の時間と冬から夏へ進む主観的な意識の時間を重ねる手際も見事な作品。構成はABBA-ABBA-CDE-CDE。
▶原文
On the Grasshopper and Cricket
The poetry of earth is never dead:
When all the birds are faint with the hot sun,
And hide in cooling trees, a voice will run
From hedge to hedge about the new-mown mead;
That is the Grasshopper's—he takes the lead
In summer luxury,—he has never done
With his delights; for when tired out with fun
He rests at ease beneath some pleasant weed.
The poetry of earth is ceasing never:
On a lone winter evening, when the frost
Has wrought a silence, from the stove there shrills
The Cricket's song, in warmth increasing ever,
And seems to one in drowsiness half lost,
The Grasshopper's among some grassy hills.
▶底本にした原文はこちらから(パブリック・ドメイン)
Project Gutenberg|Poems 1817 by John Keats