【作曲家】
▶ルイ・ドミニク・ロワ
Louis Dominique Roy (1967-)
・カナダのケベック州のシャーブルック出身のピアニスト、作曲家。
・ヘルムート・ブルーム(Helmut Blume, 1914-1998)とハラルド・オスベルガー(Harald Ossberger, 1948-2021)にピアノを師事。
・1994年から2006年までモントリオール(モンレアル)のマギル大学で声楽コーチを務め、その仕事との関わりでケベックの詩のための歌曲の作曲に取り組むようになる。それ以外にもピアノや合唱のための作品も作曲している。
・現在はピアノ教師をしているとのこと。
【音源】
▶「閉じられた夢」
Rêves enclos
・概要
この25年近くの間、ケベックの詩人の作品に基づいて書いてきた作品のアルバム。ピアノ独奏曲が1曲とブクステフーデのオルガン曲のピアノ編曲版も収録されている。
・カタログ情報
ATMA Classique (00722056411028)
・主な演奏者
オリヴィエ・ラケル(バリトン)
ルイ・ドミニク・ロワ(ピアノ)
ルイ=フィリップ・マルソレ(ホルン)
セバスティアン・レピーヌ(チェロ)
▶収録楽曲
・エミール・ネリガンの5つの詩
・エロワ・ドグラモンの3つの詩
・私の家
・サン=ドゥニ・ガルノーの3つの詩
・アルフレッド・デロシェールの3つの詩
・ジル・ヴィニョーの5つの詩
・海の上の鳥の飛行(ピアノ独奏曲)
・安らかに眠れ
・死の詩
・ブクステフーデ「シャコンヌ ホ短調 BuxWV 160」(ロワによるピアノ編曲版)
【歌詞】
・ちなみにケベックの詩人については彩流社から『ケベック詩選集──北アメリカのフランス語詩』というアンソロジースタイルの翻訳が出ており、上の音源の1曲目の「知性の月光」(Clair de lune intellectuel)については歌詞を日本語で読める(40頁)。
【メモ】
・ネリガンからガルノーまでの前半部分はグレゴリオ聖歌の語りのような譜割りと拍節を感じさせないのびやかなフレーズに貫かれており、全体的にメランコリックないし神秘的な和声に貫かれている。一方、後半のデロシェールやヴィニョーは詩ごとの内容に合わせた表情や感情がはっきりと表れる。前半の楽曲はドビュッシーが好きな人は好みに合うかもしれない。
・歌唱とピアノの主従関係は比較的はっきりしており、ホルンやチェロは時おり加わってバリトンと二重唱をするような具合である。
・バリトンのラケルは包容力のある甘い歌声が魅力的であるだけでなく、楽曲ごとに表情を使い分けている素晴らしい職人技を聞かせてくれる。デロシェールやヴィニョーの詩に寄せた歌曲では情感豊かな声色と抑揚を見せているが、ネリガンやガルノーの詩に寄せた歌曲では超然的ないし無関心な歌唱に徹しており、各々に楽曲の魅力を存分に引き出している。作曲者であるロワ自身によるピアノ伴奏も(楽曲の構成を反映しているのか)伴奏のお手本のような節度ある演奏で、ピアニストとしても素敵な方なのだろうと思う。ちなみにラケルとロワは長年の友人とのこと。
・途中に挿入されているピアノ独奏曲の「海の上の鳥の飛行」は素敵な一曲。ムード音楽寄りの楽曲集に挑戦した時に作曲した作品の一つであり、独奏曲として聴いてもとても美しい一曲になっている。