2022年10月6日

コンサートの感想|ボンクリ・フェス2018|アルヴィン・ルシエ「Sizzles」(2018年9月24日)


▶コンサート情報
「ボンクリ・フェス2018 "Born Creative" Festival 2018」(2018年9月24日、東京芸術劇場)
・スペシャル・コンサート
 作者不詳/ハナクパチャプ
 オリヴィエ・メシアン/おお、聖なる饗宴
 ペーテル・エトヴェシュ/バス・ティンパーノのための「雷鳴」
 アルヴィン・ルシエ/Sizzles
 クロード・ヴィヴィエ/神々の島
 大友良英/曲目未定
 坂本龍一/Cantus Omnibus Unus
 「Cantus Omnibus Unus」ライブ・リミックス
 藤倉大/チェロ協奏曲(アンサンブル・ヴァージョン/日本初演)

▶感想
・もう4年前に行ったフェスだけど、面白すぎて今でもはっきり覚えている曲なので感想を書いておく。ルシエの作品については藤倉大さんが解説で推していた記憶がある。この時に演奏された「Sizzles」という楽曲は(適当に訳すなら)揚げ物や焼き物の「ジュージュー音」というタイトルの作品で、実際は豆がザザーッと鳴る音を指しているのだと思う。豆が鳴るということについて説明すると、「Sizzles」の演奏は(1)パイプオルガンの前にティンパニーを四台並べ、(2)各々のティンパニーの上に種類の異なる豆類(小豆とか米とかだった気がする)をざっと撒き、(3)オルガンで低音や和音を色々と鳴らすことで豆類を振動させ、(4)その振動音をマイクで拾ってスピーカーで流す、という仕掛けで行われる。また、今回のボンクリのコンサートでは、どの豆類が鳴っているかがわかるように各々のティンパニーの隣にスタッフを配置し、ティンパニーの上で豆類が踊っている間ずっと片手を挙げて客席に知らせてくれるという親切な演出をしていた。美しいパイプオルガンの前にティンパニーとスタッフが並び、オルガンの音が変わるたびにどこかのスタッフが手を挙げ、そこで拾われた小豆などが跳ねる音を聴く聴衆……。この光景だけでめちゃくちゃユーモラスなのだが、実際に聴いてみるとさらに面白いことに、オルガンの響きに応答する豆類の振動音にはっきりとした規則性があるのだ。楽音というものは空気の波の規則的な運動だということは何となく頭で分かっているのだけれど、そうした物理的基礎が豆の振動音として取り出されてみると、見えないはずの音の姿が可視化されたような新鮮な驚きがあった。とはいえ正直に告白すると、そうした知的な驚きも、豆がティンパニーの上で跳ねている光景を人類が見守っているという状況の面白さには圧倒されてしまうのである。

・フェス全体の中で良かった思い出と言えば、入退場自由の「電子音楽の部屋」。長方形の薄暗く細長い部屋の壁沿いに教壇のような段が置かれ、そこに座ったり寝そべったりしながら、部屋に設置されたスピーカーから流れる電子音楽を聴く、という空間(壁に寄りかかって立って聴いている人もいたような)。檜垣智也さんという方がデザインした音響空間だったらしい。自由に出入りして好きなように聴けるという気楽さと、暗めの部屋で落ち着いて耳を澄ませるという雰囲気が両立していたのが良かった。そういえばアンサンブル・ノマドの演奏も(どんな曲だったかはもう思い出せないけど)エネルギッシュ&楽しげで良かったなあ。


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