■フライパン
▶銅フライパンの特徴
日本の料理店では伝統的に銅のフライパンが使われている。また、洋食のオムレツの調理にも銅のフライパンが使われることがある。
メリット:熱伝導率が最高クラスであり、卵を薄く焼いていく時に熱を素早く均等に加えられる。
メリット(2)鉄フライパンと同様に、油慣らしをすれば卵がくっつきにくい。
メリット(3)手入れをすれば大体一生使い続けられる。
デメリット(1)油慣らしをした上でさらに油を用いるため、油の使用量が多くなる。テフロンのフライパンは油が少量で済む。
デメリット(2)生産や流通が小規模なのか他のフライパンよりも選択肢が少なく、価格も高いものが多い。テフロンや鉄のフライパンはより流通量が多く、選択肢が多い。
▶銅フライパンの構造
銅フライパンは内側が錫でメッキ加工されていることが多い。メッキ加工ありの銅フライパンは衛生的である一方、メッキ加工なしの銅フライパンは熱伝導率が高い。
銅製品のメッキ加工は食品衛生法の定めるもので、本来の光沢を保った錆のない銅製品にかぎりメッキ加工をしなくてもよいとされている。また、食べ物に大量の銅イオンが過剰に移動したことが原因と推測される体調不良の例が稀に報告されているらしく、銅フライパンに食品を放置したり、手入れのされていない銅フライパンを使用したりすることは避けるべきとされている。
■味付け
▶だし巻き卵
基本のだし(と薄口醤油)のみで味をつけた卵焼きは特に「だし巻き卵」と呼ばれる。京風はだし巻き卵を基本とする。
だし巻き卵の一つの考え方として、「だし汁を卵を介して味わってもらう」という考え方がある。だし汁の量を多くすることで、火がしっかり通っていながら汁があふれる卵焼きを作ることができる。卵とだし汁の比率は店によって違いがある。一つの目安は卵に対して半分の量(Mサイズ1個に対して25mlなど)。
だし汁の割合が高くなるほどだしの味が強くなり、巻くのは難しくなる。
▶甘口の卵焼き
砂糖やみりんを用いて甘みを加えた卵焼きは(京都も含めて)全国で見られる。「江戸風」と呼ばれるのは甘露だしで作る卵焼きである。
砂糖やみりんを加えるため、焼き目(焦げ目)がつきやすくなる。
■卵液の準備
卵液をまぜる際には菜箸や泡だて器の先をボウルの底につけ、泡立てないようにする。卵液が泡立つと、焼く際に気泡ができやすくなる。気泡ができると生地に凹凸ができるため、巻いた際に層と層の間に隙間ができる。卵液をかき混ぜた泡を消したい場合は5分程度放置することで泡を減らすことができる。気泡は割らない料理人もいるが、割ればより層の密着度が高まる。
料理店の場合は殻や血合いのチェックのために一度小さいボウルの上で割ってからまぜる用のボウルに入れる。
白身をきちんと切り、焼き上がりに白いまだら模様ができないようにする。
卵液をどこまでかき混ぜるかは料理人によって方針が異なる。かき混ぜる回数を抑えることで卵のコシを残すという考えを取る料理人もいる。また、卵液を漉すかどうかも料理人によって方針が異なる。栄養があるカラザを残すために漉さない料理人や、生地を均質に仕上げるために漉す料理人がいる。
■油をなじませる
卵がくっつかないように、先に油慣らしをする。調理直前の油慣らしは少量の油でよい(多すぎると火傷のリスクが高くなる)。
キッチンペーパーで側面にもまんべんなく油をなじませていく。汚れや糖分のざらつきも取るようにフライパンの内側全体を拭いていく。
各層を焼いた後にも油を引き直す。油の量が多いと味が油っこくなり、ブツブツした表面になる。
■温度のコントロール
基本的には、高温ですばやく返していくものと考える。温度は卵液をつけてジュワっと音がする程度だが、高温でバチッとなる場合は温度が高すぎる。温度が高すぎると焦げるが、温度が低すぎると生地がフライパンにくっついたり、卵に日が通る前に水分が飛んでしまったりする。
温度のコントロールは火力の調整ではなく、フライパンを火から遠ざけることで行う。
二周目以降も最初と同じくらいに面が温まっているとよい。
IHの場合はフライパンの各部分に熱が伝わるようにIHに当てる場所をずらして切り替えながら焼く。
■巻き方
フライパンだけで返す場合は、軽く宙に浮かせて遠心力で返す。油がきちんとなじんでいればくっつかないのでフライパンで返していくことができる。卵のひっくり返る軌道をコントロールするために、箸を添える。
よりきちんと箸を使う場合、箸を卵焼きに刺してからフライパンの遠心力も利用して返す。この時、箸の力が均等にかからないと卵焼きが破れるため、箸ができるだけ卵焼きと平行になるように斜めに刺す。一層目の卵液を少し多くして厚みをもたせ、二周目から箸を指すとより安定する。
京風は手前から巻いていくスタイルなので、箸を使って巻くことになる。特に、勢いに頼らずに箸を使ってゆっくり返す京風のテクニックは「巻き締め」と呼ばれる。巻き締めを練習することで、卵を返す際に生じる隙間をなくすだけでなく、より角のはっきりさせて形をきれいにすることができる。
また、箸で返す巻き方が難しい場合は、ゴムベラを用いることで卵焼きの形を崩さずにひっくり返すことが楽になる(オムレツの生地めくりでも同様)。
■形の整え方
巻き終えた卵焼きの火通りを仕上げるには、卵焼きをさらに返しながらフライパンの側面と底面を使って形を整える。また、この時に卵焼き用の下駄を仕えばフライパンの上で形成を終えることができる。
フライパンから取り出して形を整える場合は、巻き簀を用いる。巻き簀に裏表がある場合は、平らな面ではなく丸みのある面を卵焼きに当てると、伊達巻のように表面に模様をつけることができる。
巻いた後の巻き簀の形を変えることで、円い形やひょうたんの形の卵焼きを作ることもできる。このように卵焼きを変形させるためには、卵焼きを隙間なく返すことが重要になる。
■盛り付け
側面を切り落とすことを礼儀として定めている料理人もいる。
■うちの味
砂糖醤油:卵4個:砂糖大さじ1/2:醤油大さじ1/2:水大さじ4